材料の機械的特性試験(強さ試験)関係におけるMSE試験の位置づけとして、これまでの各種試験で得られる情報と大いに異なるものであることを説明・解説します。
その他の機械的特性試験法(得意と不得意)
機械的特性試験は実機試験ではなく、材料自体の強さや外部応力因子による耐久性変化傾向等を測るための加速度試験に分類されます。
①引張試験、曲げ試験
引張試験や曲げ試験はひずみ-応力曲線からヤング率や弾性限度を測れます。しかし断面積の大きさが決まっているため、その数値は材料の平均値となってしまいミクロな面積の情報は取れません。
②硬さ試験
鉄鋼材料(塑性材料)向けに開発された方法で、ヤング率ではなく弾性限度を超えた永久変形のしにくさを数値化しています。砂のように粒子同士が結合していなくても周囲に変形を抑えるものがあればそれなりの数値が出てしまいます。ゴムの硬さは押し込み荷重と変形のしにくさでヤング率のような数値で示され、鉄鋼のように永久変形を測ってはいません。薄膜や薄い表面部の計測は基材の影響を受けそれら単体の数値化は難しいと言われています。
③脆性試験
シャルピー試験は衝撃エネルギーに対する耐性を数値化する方法で、あえて余き裂(切り込み)を入れき裂に応力集中させた方法で測ります。試験片の大きさが決まっているため、ある断面積の平均値となりミクロ面積を測れません。押し込み試験を応用して発生したき裂長さ等で測るIF法などもあります。セラミックス等の脆性材料の数値化に使われています。
④疲労試験
弱い力でも繰り返しで材料自体が弱くなっていく性質があります。その弱くなり具合を数値化する試験です。一般的に繰り返し荷重の変化と残存強度(実際には破壊までの繰り返し数)の関係を調べます。引張試験と同じように材料の断面積が大きく材料の平均値で示されます。
⑤摩擦摩耗試験
摩擦摩耗試験は材料と材料間に発生する摩擦係数や摩耗量を測る方法ですが材料の相性によって変化が激しく、個別相対的な試験に位置づけられます。
摩擦試験は材料間の摩擦係数を測る方法で、材料間に荷重をかけて滑りにくさを数値化します。滑るメカニズムは数多くありそれに合わせた試験機があります。
摩耗試験は材料をこすり合わせて摩耗の度合いを測る方法です。摩耗するメカニズムは多岐にわたり、現実にはこすり合わせ方法が変わると摩耗度合いが変わってきます。試験では実際の摩耗現象に合わせた試験法を選択することが重要です。経験が必要な技術になり分野に合わせたデータベースが重要になります。薄膜表面の場合は基材の影響を受けた結果になり薄膜単体のデータ取得は困難です。
⑥粒子エロージョン試験
粒子を衝突させて摩耗を発生させその摩耗量を数値化する方法です。低速衝突では水に粒子を混ぜたスラリーの中での撹拌摩耗、高速衝突ではブラスト技術を使った粒子投射法があります。JISやASTM等に規格がありますが大きな面積を対象としていて微少部分の測定は困難です。
MSE試験はメカニズムとして粒子エロージョン試験と同じ原理ですが、評価の目的は材料自体にある強さの可視化で、ミクロな範囲が対象となります。
MSE試験の特長的技術の位置づけ
①基本技術:エロージョン技術を使って材料機械的特性(強さ)の計測
粒子衝突による材料エロージョン量は、材料自体に内在する結合強度や欠陥などと相関することを発見、繰り返し再現性が良いことも確認しました。このことから材料自体のMSE機械的特性(強さ)を示す尺度として以下のように定義しています。
エロージョン率(㎛/g)=エロージョン深さ(㎛)/投射粒子量(g)
(数値が大きいほど弱いことを示す)
②高分解能(ミクロの探索)に特化
深さの分解能はナノレベルからミクロンレベル、微小粒子を精度良く制御する技術で実現しています。たとえば、薄膜の強さを基材に影響されずに薄膜単体の強さとして測れることになります。これまでの様々な機械的特性試験では難しかった微小エリアの強さの数値化を提供可能になりました。
③強さ尺度での分析レベルの情報を提供
材料の表面から内部までの強さ分布がナノレベル分解能で連続して取得可能になりました。たとえば、薄膜多層膜及び界面及び基材までの個別材質の強さ情報を可視化や数値化ができます。この情報は現実に起きている耐久性や寿命などの精密な分析や解析に役立ちます。また強さの断面分析にもなり、SEMやXPSの分析と比較評価が可能になります。
④対象材料が幅広い
基材に影響しないくらいに高分解能であることと、衝突エネルギー(瞬間に作用してその後0になる)の組み合わせはゴム・樹脂・金属・セラミックスとほぼすべての材料を対象にすることが可能になります。特に難しいゴムは衝突速度が速いことで相対的に柔らかさを相殺可能になり、試験可能になりました。
①大見出し 機械的特性試験法とMSE試験法のポジショニング
A、作用エネルギー密度及び発生応力と作用点相対速度の関係

異なる機械的特性が得られる理由
- 作用速度に関して多くの試験は「静的」が多く、MSEは「高速」であることの違いがあります。
- 試験の作用メカニズムの基本は「力を加える」と「パルスエネルギーを加える」の違いがあります。
- 数値化の方法でも「一点の情報」と「多量粒子の統計処理情報」の違いがあります。
B、分解能と評価面積の関係

これまでの試験空白領域が対象となる理由
- 深さ計測分解能がナノメートルレベルを実現しています。
- 1mmと広い摩耗痕の形状を水平分解能1μmで計測し、その範囲のデータを統計処理(1ポイントのみでない)しています。
- 結果として面内バラつきのある材料も試験可能となります。
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